Series — Scars  ·  Oil on Canvas

Scars

皮膚は境界であり、
世界と衝突した記憶のキャンバスである。

理不尽な暴力、事故、あるいは戦禍。それらによって変容させられた皮膚を描く行為は、やがて人間の表面から大地の表面へと視線を移し、信州・三水の土を焼き、土地の記憶を抉り出す「左美都(さみず)」のモチーフへと至る、決定的な転機となった。

Series Statement

「傷 / Scars」シリーズは、紛争、事故、そして酸攻撃(アシッドアタック)の被害者たちの写真を起点に制作された油彩作品群だ。彼らの傷を絵の具でなぞりながら、私は「表面の崩壊と修復」を描いていた。

キャンバスの上で物質としての絵の具を盛り上げ、削り取る。その行為は、被害者たちの損なわれた皮膚に触れ、彼らの痛みを三次元的な重さとして再構築する試みだった。写真という平坦な記録では零れ落ちてしまう「傷跡の生々しい感触」を、油彩の層が証言する。

この「皮膚と傷」という物質的な探求は、やがて私を別の次元へと導くことになった。

人間の表面に刻まれた傷を見つめ続けるうちに、私の関心は「大地の表面(土)」へと向かっていったのだ。歴史や風土という見えない傷を、泥という物質で形にする。このシリーズで「皮膚の変容」を描き切ったことこそが、後に陶芸を取り入れ、土地の記憶を焼き付ける「左美都」の制作へと至る、最も重要な土壌となったのである。

Scars

AAVAcid Attack Victim

ChronologyTimeline

2016
傷(5) (イスラエルの少女)
2016
Year

傷(5) (イスラエルの少女)

31.8 × 41.0 cm / Oil on canvas

顔を覆うように引かれた不鮮明なストロークは、物理的な傷跡であると同時に、記憶のブレ、あるいは存在の揺らぎそのものを表している。

油彩特有の粘り気のある筆致は、少女の表情を不確かなものにしながらも、そこに確かな「皮膚の重さ」を残している。

2016
黒人妊婦 [コナーさん]
2016
Year

黒人妊婦 [コナーさん]

31.8 × 41.0 cm / Oil on canvas

顔の半面を覆うように施された処置と、そこから覗く生々しい皮膚の質感。生命を宿す身体と、外側から加えられた傷という二つの相反するベクトルが一つの画面に同居している。

白と黒の対比の中に、痛みの記憶が静かに塗り込められている。

2015
Acid Attack Victim [Sonali Mukherjee]
2015
Year

Acid Attack Victim [Sonali Mukherjee]

130.3 × 162.1 cm / Oil on canvas

ソナリ・ムカジーさんを描いた大作。酸によって視力を奪われ、顔の構造を激しく変容させられた彼女の姿を、容赦のないスケールで描き出した。

しかし、ここで描かれているのは単なる「被害の凄惨さ」ではない。布を掴む手の骨格、わずかに開かれた口元。崩壊した表面の奥から発せられる圧倒的な「生」への執着だ。この極限の物質としての「顔」を描き切った体験は、私の関心を人間の皮膚から、世界の皮膚たる「土」へと深く沈潜させることになった。

2015
傷(4)
2015
Year

傷(4)

31.8 × 41.0 cm / Oil on canvas

視線は霞み、背景と皮膚の境界は溶け合っている。私たちが「傷」と呼ぶものは何か。それは外部からの力が介入した痕跡だ。

キャンバスに顔料を擦り付ける行為自体が、画面に対する一つの「傷」をつける行為に他ならない。油彩によるこの物質的な格闘は、やがて窯の中で火炎が土に傷をつけ、景色を生み出す陶芸の表現へと必然的に結びついていった。

2014
視線(2)[ティラナ (アルバニア共和国)]
2014
Year

視線(2)[ティラナ (アルバニア共和国)]

130.3 × 162.1 cm / Oil on canvas

弾薬庫の爆発事故により顔に傷を負った少女。長辺162.1cmという巨大なキャンバスに描かれた横顔は、個人の悲劇を超え、静謐なモニュメントのような強度を持つ。

絆創膏の白と、滲むような赤。傷を描きながらも、その奥にある生命の尊厳を浮かび上がらせる。この「表面への痛みの刻印」への眼差しが、のちの大地(土)へのアプローチへと繋がっていく。

2014
さけび
2014
Year

さけび

130.3 × 162.1 cm / Oil on canvas

2014年に制作された「さけび」。傷シリーズへと本格的に移行する直前の、内面的な葛藤や他者との境界線の揺らぎを油彩の激しいストロークで捉えようとした重要なマイルストーン。

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