Series — Variant Forms  ·  Body & Landscape

Variant

Landscape into Body

風景の形や動きが集まり、偶然にも身体に見えてくる。
見方によっては風景であり、別の瞬間には肉体となる。
その境界で揺れ動く不思議な存在たちを、私は「異体」と呼んでいます。

Series Statement

《異体》と分類される作品群は、風景を描出する過程において視覚的構造が特定の形態へと収斂していく中で、結果的に「身体としてみなされうる」かたちが析出されたものです。

私はもともと、具体的な人物を描こうとしていたわけではありません。左美都の森や岩肌、あるいはそこにある光と影を描き重ねていくうちに、画面の中に予期せず人間の身体や動物のようなシルエットが現れ始めました。それはパレイドリア(壁の染みが顔に見える現象)のような、人間の根源的な知覚の働きを絵画の中でなぞる体験でした。

見方によってはただの森であり、別の瞬間には身体に見える。その不確かな境界で生まれる存在を、私は「異体(Variant)」と名付けました。

油彩の物質感と流動的な筆致は、対象の輪郭を意図的に溶かし、無機物である自然と有機的な生命体とをシームレスに繋ぎます。

絵の具の層を削り、重ねる反復的な行為は、風景の深層に潜む記憶を掘り起こす作業そのものです。

「異体」シリーズを通じて問いかけているのは、私たちの眼がどのように世界を認識し、意味を見出しているのかということです。キャンバスに定着させたのは、形ではなく、そこに立ち現れる「気配」や「息遣い」の痕跡なのです。

— Tsuda Shoichi

2025
スイコ(2)

スイコ(2)

162.1 × 130.3 cm / Oil on canvas

2022年に制作された「スイコ(タレイア)」の系譜に連なる2025年の最新作。前作に見られた水面に揺らぐような反映は、ここではより複雑で結晶的な色彩の乱反射へと進化しています。

流動する風景のなかに現れる身体的なフォルムは、冷ややかな青と紫のグラデーションに包まれ、有機物と無機物の境界をいっそう曖昧にしています。「異体」シリーズにおける、現時点での新たな視覚言語を示す一枚です。

2023
石筍

石筍

162.1 × 130.3 cm / Oil on canvas

洞窟の中で途方もない時間をかけて形成される石筍をモチーフにした作品です。上方へと伸びゆく硬質な形態の中に、微かに立ち上がる人体的の気配を感じさせます。無機物である岩石と、有機的な身体のイメージが画面上で交錯し、静謐でありながらも確かな生命の躍動を定着させています。

幾重にも重ねられた重厚なマチエールと暗灰色の階調が、深淵なる地の底の時間を鑑賞者に想起させ、見る角度によって風景から屹立する身体へとその姿を変容させます。

2022
スイコ

スイコ(タレイア)

162.1 × 112.1 cm / Oil on canvas

ギリシャ神話における喜劇と牧歌を司る女神タレイアの名を冠した本作は、水面に揺らぐ風景の反映と、女性的な身体の柔らかな曲線を重ね合わせています。

流動的な筆致は対象の輪郭を意図的に溶かし、鑑賞者の視点の移動によって風景にも人体にも変化する「異体」の性質を強く示しています。画面全体を支配する青と緑が混ざり合う色彩は、生命の源である水を象徴すると同時に、移ろいゆく記憶の曖昧さを表現しているかのようです。

2022
イワカガミ

イワカガミ(エウプロシュネー)

162.1 × 97.0 cm / Oil on canvas

厳しい自然の中で咲く高山植物のイワカガミと、歓喜の女神エウプロシュネーが結びついた作品です。過酷な環境で可憐な花を咲かせる植物の生命力と、内側から溢れ出るような身体のエネルギーがキャンバス上で共鳴しています。

画面を覆う細やかなテクスチャは、風化した岩肌のようでもあり、同時に温もりを持った皮膚のようでもあります。視線は画面上を滑り、植物の葉脈から人間の血管へとシームレスに移行する錯覚を覚えるはずです。

2022
アケビ

アケビ(アグライア)

162.1 × 97.0 cm / Oil on canvas

果実のアケビと、輝きを司る女神アグライアのイメージが交差します。熟して割れた果実の形態は、古来より生命の誕生や肉体の開口部を強く暗示してきました。

植物の形態が持つ官能性を風景画の文脈の中に巧みに隠蔽しつつ露呈させています。紫と褐色の深い色調の中で、光を受ける部分だけが滑らかな肌のように輝き、視覚的な触覚性を強く刺激する作品に仕上がっています。

2022
スズラン

スズラン

162.1 × 130.3 cm / Oil on canvas

スズランは、鈴のような小さな白い花をつけ、清らかで可憐な印象を与える一方で、強い毒性を持つという二面性も持ち合わせています。

絵画の中心を占める柔らかな白い塊は、スズランの純粋で無垢な花々を想起させます。対象の具象的な形を直接的に描くのではなく、その本質的な「気配」や「雰囲気」を捉えようとする姿勢を示唆しています。美しさの裏に隠された神秘性は、この植物の持つ二面性と深く共鳴しています。

2020
リリス(胸部)

リリス(胸部)

116.7 × 91.0 cm / Oil on canvas

原初の女性とされる「リリス」をテーマに身体の部位を描き出した三部作の一つ。生命を育む象徴的な部位が、荒涼とした風景の起伏や隆起として立ち現れます。

肉体の生々しさは巨大な風景のスケール感へと変換され、逆に風景は呼吸する肉体としての温もりを獲得しています。削り取られ、執拗に重ねられた絵の具の層は、抑圧された神話の地層を掘り起こすかのような探求の痕跡です。

2020
リリス(腰部)

リリス(腰部)

116.7 × 91.0 cm / Oil on canvas

豊穣や大地のメタファーとして古くから美術史に描かれてきた腰部・骨盤の形態が、ここでは地殻変動による渓谷の地形と重ね合わされています。

画面を走るダイナミックな線の流れと、重力に従って滴る絵の具の生々しい痕跡が、生成と崩壊を繰り返す自然のサイクルと肉体の宿命を同時に表現しています。中心に向かって吸い込まれるような力強い構図が特徴的です。

2020
リリス(臀部)

リリス(臀部)

116.7 × 91.0 cm / Oil on canvas

柔らかな曲面と深い影が交差する本作は、風景の中のなだらかな丘陵地帯を思わせると同時に、紛れもない人体のフォルムを鑑賞者に提示しています。

光と影の劇的なコントラストが立体感と量感を際立たせ、触れられそうなほどの存在感を放っています。リリス三部作の締めくくりとして、人間が自然の一部であり、また自然そのものが巨大な身体であるという世界観を体現しています。

2018
上に溶ける...

上に溶ける...

162.1 × 130.3 cm / Oil on canvas

画面の大部分を占めるのは、白を基調とした、とろけるような有機的な形態です。まるで液体が固形物から溶け出し、重力に逆らうように上昇していくかのような動きを感じさせます。

画面の右上部には強烈な光を放つかのような鮮やかな黄色が配され、光と闇、生成と消滅といった対極的な概念を想起させます。人間の内面世界、存在の本質、あるいは生と死といった深遠なテーマに向き合い、物質と非物質の境界が曖昧になっていく様を捉えています。

2018
Náströnd

Náströnd

116.7 × 290.0 cm / Oil on canvas

北欧神話における「死者の岸辺」を意味するNáströndを主題とした横長の三面構成。漆黒の闇の中に、紫がかった肉体とも風のうねりともつかない有機的な塊が、左から右へと滲み出すように展開していきます。

画面中央に走る一筋の黒い亀裂は、生と死、可視と不可視を隔てる境界線そのものです。布のように波打つ筆致は、彼岸の岸辺に打ち寄せる魂の堆積を思わせ、暗闇の中でかすかに発光するような白紫の階調が、消えゆくものの最後の輝きを留めています。

Contact

お問い合わせ

展覧会・作品購入・取材・コラボレーション等、
お気軽にご連絡ください。

問い合わせフォームへ
TOP