多面体は、ひとつの面では語れない。
11名の作家たちが長野のホールに集い、表現の現在地と変容を問う。
「next×N-ART2026」は、制作のかたわら地域でのアート拠点づくりに取り組む作家たちを中心に、世代も表現スタイルも異なる長野ゆかりの11名が参加するグループ展だ。会場となるホクト文化ホール1Fギャラリーの長い廊下状の空間を歩むことで、鑑賞者は個々の作家の「現在」と対話していく。
津田翔一は本展に大型の油彩作品などを複数出品。これまで「異体」と呼んできた結晶状の形象は、ホールの広大な壁面で新たな展開を見せた。それは単なる異体の集積ではない。鋭角の面が衝突し、複数の視点が同一平面に折り重なる中で、個々の形は互いに浸透し合い、ひとつの「森」のような生態系へと変容しつつある。アートを「変容する多面体」と捉える本展のテーマに呼応するように、自身の絵画構造が次のフェーズへと移行する確かな足跡がここにある。
休館日 2月17日(月)
11:00 — 17:00
共催:(一財)長野県文化振興事業団
多面体とは、単一の面では語れない存在のことだ。
かつて独立した「異体」として描かれた形は、
今や響き合い、連なり始めている。
鋭角の面が衝突し、折り重なるたびに生まれる新たな脈絡——
それは単なる形の集積を超え、ひとつの「森」へと変容する兆しである。
Works in Space
大空間に現れた「森」の萌芽
ホクト文化ホール1Fギャラリーは、公共建築特有の長い廊下空間だ。白い壁と磨かれた床が延々と続くその場所に、津田の油彩が展開する。大型作品の物質的な重さと、そこから放たれる色彩の密度は、建物的均質な時間を確かに裂き、無機質な空間に呼吸する森の気配を立ち上がらせていた。
呼応し合う色彩の生態系
廊下を歩くごとに、作品の見え方は変わる。正面から見れば鋭角的な構造が前景に出てくるが、斜めから見れば面と面の重なりが生み出す深い奥行きに引き込まれる。展示は一方向の視線を拒み、歩みを進める鑑賞者を森の奥へと誘うように、複数の視点と角度から絵画との対話を要求する。
F100やP100といった大型作品が壁面を中心に連なり、そこに小品が呼応する。これらはもはや孤立した絵画ではなく、大木の根とそれに群生する植物のように、空間全体でひとつの有機的な関係性を結んでいる。
Entrance Display
ガラス越しの多面性
ホールのエントランスに面したガラス張りの区画。グループ展の会場構成として割り当てられたこの空間は、結果として作品の見え方に予期せぬ視覚的レイヤーをもたらすことになった。
反射と透過がもたらす必然
厚いガラスは物理的に鑑賞者と絵画を隔てているが、同時に周囲の光やロビーを行き交う人々の姿、外の景色をその表面に映し出している。
キャンバス上に描かれた鋭角的な面と色彩の重なり合いに、現実空間の反射がさらに覆い被さる。ひとつの視点からは捉えきれない「多面体」としての絵画が、ガラスという環境のフィルターを通すことで外の世界と混ざり合い、見る時間や角度によって常に表情を変え続ける。与えられた展示区画でありながら、この作品がここに置かれた必然性が確かに存在していた。
Individual Works
孤立から共生への移行
津田翔一の絵画において、形体は解体された風景の残像であり、再構成された地質の断面でもある。展示された各作品は独立した世界を持ちながらも、並べて見ることで、それらが互いに浸透し合う「森」のプロセスが浮かび上がる。
青と灰の脈絡
白や青磁色が透けるように重なり、その下から茶・赤・黒の線が地脈のように走る。結晶体のような面の交差は、もはや閉じた構造体ではなく、外へと増殖を続ける生命力のようなものを内包している。
共鳴する形象群
大小の作品が一つの壁面に並ぶとき、単なる形の集積ではない有機的なつながりが現れる。紫がかった暗色と、明るい灰・青緑の対比は、異なる季節の記憶を同時に保持しながら、ひとつの風景を織り成しているかのようだ。