発掘という所作を、展示に借りる
- 遺跡名
- 三水(出土想定域)
- 調査地
- 伊那市内 公募展示会場
- 会期
- 若手作家公募個展
「トライアル・ギャラリー」2023 - 手法
- 油彩 / 想定復元資料 / 口頭調査
- 調査主体
- 津田 翔一
「壁には風景を、中央には、そこから出土したと見立てた器の破片を置く。展示室そのものを、ひとつの発掘区画に見立てること。」
公募という、不特定多数の視線に晒される場で、津田翔一が試みたのは、絵画の展示に考古学的な展示空間の文法を借用することだった。壁面には三水の風景を断片化して描いた油彩を掛け、会場中央のガラスケースには、そこから出土したと見立てた木製の匙や土製の耳飾りの欠片——実在しない集落の記憶を宿す「想定復元資料」——を並べた。絵画は壁面資料として、造形物は出土遺物として、それぞれの立場を演じる。鑑賞者は知らぬ間に、展示室を歩く来場者から、遺跡を歩く調査員へと役割を変えていく。
2026年の現在から振り返れば、この構成そのものが、後年「左美都の神話と伝承」として結実していく手法の、最初の試掘であったことがわかる。虚構の土地に、虚構の史料を与え、その史料を通じて土地の記憶を語り直す——という方法論は、まさにここから掘り始められている。本ページは、その最初の発掘区画の記録である。
壁面資料:三水、断片の風景
会場の壁を占めた油彩群を、図版として記録する。各図版は、会場内の位置(壁面記号)とともに掲載した。左右にスクロールしてご覧ください。
遺跡としての展示室
壁面に図版(絵画)、中央に遺物ケース(想定復元資料)——記録写真から再構成した会場の平面図。展示空間そのものが、ひとつの発掘区画として設計されていたことがわかる。
中央遺物:想定復元資料
会場中央のガラスケースに収められていたのは、実在の遺跡から出土したものではない。作家自身が構想した、三水という存在しない土地の記憶を宿す「想定復元資料」——虚構の考古学である。
木製匙(もくせいさじ)
- 時代
- 平安時代後期(想定)
- 出土地点
- 三水(復元資料)
- 材質
- 広葉樹材
- 法量
- 全長 約9cm(推定復元)
木材資源に恵まれた三水の集落では、食器としての匙が日常的に用いられていたと想定される。生活道具としての静かな用途こそが、土地の記憶を最も雄弁に語ると考え、あえて祭器ではなく、この一片を選んで復元した。
土製耳飾(欠片)
- 時代
- 縄文時代晩期(想定)
- 出土地点
- 三水・楯の城遺跡(想定)
- 材質
- 土製
- 法量
- 残存径 約3cm
年齢や役割に応じて身に着け替えられたとされる装身具。個人の成長と、共同体内での位置づけを示す象徴として機能していたと想定し、欠片としてあえて未完のまま提示している。
ことばによる、二度目の発掘
断片化した絵画と、捏造された考古資料——一見無関係なふたつの実験について、津田は他の出品作家との対話の中で語る機会を得た。言葉にする過程で、両者が同じひとつの問いから生まれていたことに、津田自身が気づかされることになる。
「土地の記憶は、誰がどのように語り直すことができるのか」。絵画による断片化と、資料による捏造は、その問いへの、異なる二つの回答の仕方に過ぎなかった。この気づきが、展示後の制作の方向を決定づけていく。
解説者の言葉に耳を傾ける来場者たち。断片絵画の背後にある構造が、口頭によって初めて輪郭を持つ様子が記録されている。展示という視覚的な発掘に、対話という聴覚的な発掘が重なった瞬間である。
地層の先に
「これは、まだ地図に載っていない土地の、
最初の測量だった。」